もう四半世紀も前のこと。
3人目の子どもが生まれて我が家は五人家族になった。
随分前のことなので、あまり良くは覚えていないのだが、発端はテレビのニュース。
海水浴を楽しむ家族が死亡するという事故を伝えていた。
痛ましいことに変わりはないのだが、毎年同じように繰り返されるありふれた事故であった。
その時に夫に聞いたことがある。
「私と子ども達がもし溺れていたら、あなたは誰を助けるか」…と。
夫は即答した。
「姫」(←長女)だ。
そうだな。
当時2歳の娘。
上に二人の男の子がいて、最後こそは女の子が欲しい…といろいろな自己満努力を試してみた結果、生まれた待望の女の子である。
娘を選んだのは至極当然のことであっただろう。
その時、
「上二人は男だし、それくらいのことを乗り越えられないようでは、この先やっていけない」
なんとも厳しいお言葉だ。
獅子は我が子を千尋の谷に落とす。
まさしくそれ。
溺れているのを、『それくらいのこと』って言っちゃうのもどうかと思うが、
続けて
「姫は女の子だし、まだまだ小さいし、泳げないし、かわいいし、俺が助けなくて誰が助ける?」的なことを力説していた。
あれから20年以上経ち、娘も25歳になった。
体型も体力も立派な大人である。
かたや私。
誕生日を境に、最近調子がよろしくない。
待ってました!とばかりにあちこち痛み出し、目のかすみも加速してきた。
ここでもう一度聞いてみよう。
「もし私と子ども達が溺れていたら、あなたは誰を助けるか」…と。
彼の返事は非情のライセンス。
「もう自分が泳ぐだけで精いっぱい」
「棒ぐらい投げてやる」
…だと。
棒?
えっ?
棒???
突き刺さったら危ないじゃないか!
しかしこれも正解だろう。
池袋の暴走事故で元院長が、過失運転致死傷の疑いで書類送検された。
これを受け、事故で亡くなった奥様のご主人が会見に臨んでいたのだが、気の毒で見るに堪えなかった。
最初からウソだらけの元院長。
「ブレーキが利かなかった」→「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」
ココまではなんとなくわかるような気もしないでもない。
しかし、
「もっと安全な車を開発するように」
と言ったとか。
そして
「フレンチレストランの予約に間に合うように急いでいた」
らしい。
この話、昨日初めて知った。
もし、なにごともなくそのレストランへ行ったとしたら、ワインの一杯も飲むのだろう。
で、帰りはどうする?
代行呼ぶのか?
いやいや、きっと自分で運転して帰っただろうな。
だって
「オレは上級国民」
だから。
「憎しみなんてゼロになるわけないじゃないですか」
ご主人の言葉が突き刺さった。
~今日の一句~
国民に 上級下級が あるでなし